Who is responsible for the creation and destruction of Earth.

インドでは3月に行われたヒンドゥー教の春を祝うお祭りのホーリーや、

4月に行われた世界最大の宗教行事とも言われている、ヒンドゥー教のクンブメーラ祭りを

行うために、このコロナ渦の中でも多くの人達が密集してしまい、

12年ぶりにクンブメーラの舞台となった聖地ハリドワールには500万人を超す巡礼者や

サドゥーが訪れ、ガンジス川での沐浴や、マスク不着用での超密集が原因で、

今日現在で1日のコロナウィルス感染者が40万人を超えるという異常事態に陥っていて、

連日1日あたりの感染者の世界記録を更新し続けているようです。

BBCのニュースを見ていると、病院のベッドも医療用酸素なども完全に不足しており、

意識が無い状態で病院に運ばれてきても、診察してもらうことも病院に入ることすら

も出来ずに、病院の前やリキシャーの中で生き絶えてしまう人々で溢れかえっており

想像を越えた地獄絵図のような光景に言葉を失ってしまいました。

今インドがこの様な状況になっているのは、インド政府がヒンドゥー教指導者や国民の

反対を懸念して、ホーリーや特にクンブメーラの開催を中止しなかったことが、

インドの感染爆発を引き起こした原因だと世界のメディアから避難を受けていますが、

インドという国を知っている人だったら、

今のこの状況を少しは予想出来たのではないかと私は思います。


まずインドの衛生観念の低さは世界的に見ても酷く、生活の根本部分での意識が低すぎる

ことです。インドでは手掴みで食事をするにも関わらず、手を石鹸で綺麗に洗ったり、

消毒なんて勿論することもなく、右手は食事、左手はトイレでお尻を洗う、

という感じで不浄の手を使い分けることで、そんなに綺麗に洗わなくても問題なしと

する人が多く居ました。インドではお店で売られているミネラルウォーターや

食堂で出される飲み物のコップでさえ口をつけて飲むとお腹を壊すことがあるので、

インド人以外は絶対に口をつけてダイレクトには飲まないし、

アグラの水道水なんて薄茶色に汚れていてインド人でさえ飲みたがらず、

シャワーの水や歯磨きで口をゆすぐ水道水から腸チフスに感染した人もいるレベルです。

人より何倍も気を付けて暮らしていた私も3ヶ月に一度は感染症や胃腸炎に

かかっていたし、日本に帰国した際には病院の検査でO-5という大腸菌を保持していたり

しました。でもそんな環境下だからこそ、インド人のあの免疫力の強い肉体が

作られていったのだと思うし、排泄物、生活ゴミ、未処理の下水、産業廃棄物、

水葬された死体などで異臭が漂うコーヒー色のガンジス川、聖なるドブ川のガンガーで

沐浴や洗濯をするインドの人達、中国よりも危険な濃度のPM2.5の空気の中でも

マスクなんて必要ともせずに、車の窓を全開で鼻歌まじりに颯爽と走るインドの人達、

汚染された水や空気なんてものともせずに暮らすインド人に、

石鹸で手洗い・うがい・マスク・消毒などが生活の中に浸透しなかったのも頷けます。


そしてあの環境下でも暮らしていける免疫力の強い体を持っているとはいえ、

飛沫や人との接触で感染すると言われているコロナウィルスが、

インドの人たちに広まっていったとすると、インド人のパーソナルスペースが

ほぼ無いに等しい、近すぎる人間関係にあると思います。

列に並ぶ時は割り込まれないように前の人の背中にお腹がつくほどに密着したり、

インドではお馴染みの光景、ぎゅうぎゅう詰めの電車の屋根にまで乗客が乗っている

乗車率200%の満員電車や、3人くらいがサンドイッチ状態になって寝ている寝台車、

デリーの地下鉄では座っている人の膝の上に全く知らない他人が座るという、

嘘みたいな光景が当たり前の日常なので、

ソーシャルディスタンスなんて取りたくてもなかなか取れない国だと思います。


そして最も大きな要因はインド人にとっての信仰心、宗教が生活と彼らの心をしめる

大きさではないでしょうか。インド人は信仰心の厚い国民で、インドでは約80%が

ヒンドゥー教を信仰していますが、彼らの生活は宗教をなくしては語れないし、

起床してから就寝するまで、彼らのライフスタイルに宗教が深く根付いています。

無意識の行動にも信仰心が現れ、目覚めるとまずは朝日に向かって一礼し、

彼らの1日はプージャ(お祈り)から始まり、プージャで1日を終える。

朝晩2回、日が昇る時と落ちた後に皆が寺院に集まって神への礼拝のプージャを

行うことは日常です。ヒンドゥー教は多神教なので多種多様な神様がいて、

曜日ごとにそれぞれの神様にお祈りをする日が割り振られており、月曜日はシヴァ、

火曜日はハヌマーン、水曜日はクリシュナ等、それぞれの神様に対して毎日祈りを

捧げています。ハヌマーン猿神は親愛と献身の象徴で、ハヌマーンへの祈りを込めて、

火曜日は肉食をしないという習慣があり、その他にも火曜日は髪や爪を切らない、

土曜日は髭を剃らないなどの、細かい制限が色々とあるようです。

このように宗教的な目的で行われる断食・制限などや、寺院礼拝や巡礼旅行などの習慣は

いたって日常の風景であり、彼らの神たちは個々にただ存在しているのではなく、

宇宙そのものである唯一至高の存在が、それぞれの神の姿となって存在していると

考えられており、故にインド人にとってのホーリーやクンブメーラも、

不要不急のただの宗教行事ではなく、彼らにとっては生活する上での必要不可欠なことの

1つだったのだと思います。ガンジス川で沐浴する人たちは皆一様に、聖なる川ガンガーに

コロナウィルスなど存在しないと信じて、皆で祈りを捧げていたのかもしれません。

私たち日本人や外国人には理解が難しい部分になりますが、

インド人にとっての生活=宗教という、このごく当たり前の自然な意識やマインドが

今回の感染爆発の悲劇に繋がったのだとすると、とてつもなく悲しい気持ちになります。


これから世界がどこへと進んでいくのかわかりませんが、

インドが一刻も早く日常と平和を取り戻せますように。

そしてまたいつか渡印出来る日を、またインドの友人たちに会える日を願いながら、

わたしは大好きなあのインドのチャイの味を思い出しています。

Om, Shanti, Shanti, Shanti. 


Ashoka